2010年05月27日
Tormato/YES (イエス)
![]() | トーマト イエス ワーナーミュージック・ジャパン 2010-05-26 |
パンク・ロック、ニュー・ウェーブ、ディスコ・ブーム、AOR、テクノ等の新たな音楽の流行、そして既に後の産業ロックの芽すらも芽生え始めていた1970年代後半、3年ぶりの新作『Going for the One(究極)』(1977年)で、トップ・グループとしての貫禄と意地を見せたYES(イエス)が、その翌年に更に時代との融合を目指して制作した通算9作目(スタジオ録音盤)のアルバム『Tormato(トーマト)』(1978年発表)。
すでにプログレッシブ・ロック・ブームも久しく、YESの様な大作主義は時代遅れとなり、パンク・ロックやコンパクトでキャッチーな楽曲がもてはやされる音楽シーンに合わせて、前作から見られた楽曲のコンパクト化を更に推し進めて、かなり聴きやすい作品として仕上げられたアルバムです。
1. Future Times/Rejoice
2. Don't Kill the Whale
3. Madrigal
4. Release, Release
5. Arriving UFO
6. Circus of Heaven
7. Onward
8. On the Silent Wings of Freedom
Jon Anderson - Vo.ジョン・アンダーソン
Chris Squire - B.クリス・スクワイア
Steve Howe - G.スティーブ・ハウ
Rick Wakeman - Key.リック・ウェイクマン
Alan White - Dr.アラン・ホワイト
個人的には、この時期のアルバムとしては、名盤といわれる前作『Going for the One(究極)』より、様々なタイプの個性的な楽曲、YESの新たな可能性を模索して制作された楽曲の面白さ(成功しているかどうかは別として"Release, Release"はYESらしさを残しつつも新たな試みであり、"Arriving UFO"などは新型YESサウンドとして大きな可能性を秘めていた)、そして佳作揃いの上、コンパクトにまとめられた楽曲群の聴きやすさなどから、実は今では『Tormato』を聴く機会の方が多いのですが、アルバムの完成度としては作り込みが甘く、大作主義を捨て時代に迎合しようとしての試行錯誤の中で、メンバーの創作能力、及びモチベーションが著しく低下していることが感じられる作品です。
オールド・ウェーブと言われながらも人気を維持し続けて、当時はセールス的には成果を残したものの、前作では成功していたセルフ・プロデュースも上手く機能せず、良いのだけれど何か足りない、という中途半端な印象を残す楽曲や、前作以上に楽曲アイディアの焼き直し的な印象を感じさせる部分もあり、これまで水準の高い作品を出し続けてきたYESのアルバムとしては、トータル的に少し寂しい内容であることは否めません。
これぞYESというサウンドと実にYES的な展開を聴くことが出来る"Future Times/Rejoice"。Jon Anderson(Vo.ジョン・アンダーソン)の趣味全開、制作段階でもバンドを強引に引っ張ったであろう"Circus of Heaven"。そしてなんと言っても、YESがこれまで大作主義的な楽曲で創り上げてきたスケール感のある音世界を上手く4分間のポップ・ソングに凝縮することに成功したChris Squire(B.クリス・スクワイア)作の名曲"Onward"。このあたりの楽曲はわりと良く出来ているのではないかと思うのですが、全体的には時代に後れてしまった焦燥感からくる混迷、創作能力とモチベーションの低下による散漫な演奏やアレンジ、セルフ・プロデュースによる主導権争いの激化や音作りの不味さ、全体的なバランスや録音の悪さなど、素性の良い楽曲揃いで可能性は秘めながらも未完、中途半端な完成度といった印象。特に"Arriving UFO"などは惜しい楽曲。UFOというYESが創ってきた音楽としては陳腐(このアルバム発表の前年1977年に映画『スターウォーズ』『未知との遭遇
』公開)な題材ながら、この楽曲素材としてはYESの新たな可能性さえ感じさせる様な非常に良い物を持っており、きちんと作り込めばYESを代表する名曲のひとつに育つ素質が充分にあったのではないかと思われ、それを出来なかったバンドの状態を補う良いプロデューサーが付いてさえいれば、と返す返すも残念な楽曲です。そういう意味では佳作揃いの本作『Tormato』自体も、自己主張の強いメンバーに的確な意見が言える良いプロデューサーさえ付いていれば、各メンバーの自分勝手な演奏(音色の選び方からアレンジ面、各楽器のバランスやフレーズなど)で散漫になる事無く、内容的にももっと煮詰められて、少なくとも『Going for the One(究極)』を超える名盤に育つ可能性も充分あったのではないかという素材ではあります。
また、プログレッシブ・ロック・ファンには時代に迎合したプログレ・ポップとでも言うような内容から一般的に評価が低いアルバムですが、大作主義期のYES、この時期のポップ面を前面に出したYES、と言うように分けて聴く事が出来るかどうか、またYESを聴く人のYESに求めている部分の違いによって評価が分かれるアルバムではないかとも思います。
個人的には、散々否定的な事を書いてはいますが、(YESの名盤を聴き込んできたからこそ感じる)YESの水準としては作り込みが甘い部分や焼き直し感があるというだけで、流石に数々の名盤をモノにしてきたベテラン・バンドだけあって、それなりの作品にはまとめられており、決して嫌いなアルバムではありません。一般的にも評価され難い、と言うか無視されているに等しいアルバムですが、そういった当時の評価を鵜呑みにして未だに『Tormato』を聴いた事の無い人も、実際に聴いてみると意外に良いアルバムだと思える内容にはなっていると思いますので、機会があったら一度聴いてみることをお勧めします。また、70年代ロックではなく、後の世代、特に80年代のロックに馴染んでいる方、まだ70年代のYESのアルバムを聴いた事がない方などにとっては意外な名盤に聴こえるかもしれません。
本作発表後のツアーを最後に(正確には次作製作中)、バンド(YES)での活動に限界を感じてソロ活動に光明を見出し始めていたバンドの顔(声)であるJon Anderson(Vo.ジョン・アンダーソン)と、本来の居場所はここ(YES)なのに、ついついソロ活動への色気やJon Anderson & Steve Howe/G.スティーブ・ハウ)組との楽曲制作の主導権争いに嫌気が差してしまって、その都度出入りを繰り返すRick Wakeman(Key.リック・ウェイクマン)が再び脱退。YESはバンド存続の危機に陥ってしまいます。(最後のフレーズはこのアルバムの紹介で良く使われるフレーズなので変えようかとも思いましたが、使ってしまいました。笑)
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